東京地方裁判所 平成4年(ワ)5141号 判決 1995年10月26日
原告
中野長吉
右訴訟代理人弁護士
竹本裕美
被告
野村證券株式会社
右代表者代表取締役
酒巻英雄
右訴訟代理人弁護士
小野道久
主文
一 被告は、原告に対し、金七六二万七〇〇〇円及びこれに対する平成四年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一九〇六万七五〇〇円及びこれに対する平成四年四月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 被告は、有価証券の売買、売買の媒介、取次及び代理等を業とする株式会社であり、綱島和仁は、被告の従業員であり、原告と被告との証券取引の担当者であった。
(二) 原告は、昭和六二年ころから被告(宇都宮支店)と証券取引をしていた者である。
2(一) 原告は、平成元年に妻(昭和六三年六月九日に死亡)の生命保険金と満期になった定期預金と合わせて約二〇〇〇万円の余裕資金ができたので、確実な投資先を捜していた。被告の担当者の綱島は、平成元年四月ころ、原告宅を訪問し、良い商品があるので前記二〇〇〇万円の運用を自分に任せて欲しい旨原告に申し向けた。原告は、「この二〇〇〇万円は妻の残したものであり、子供達にも分け与えるものであるから、元金が減らない確実なものでなければ投資をしない。」と述べると、綱島は、「この商品は元金は減らないし、利息も銀行よりも若干有利であるから、野村證券の運用を信じて欲しい。」と何度も言って原告を信用させた。
(二) そして、綱島は、何も分らない原告に書類を示し、指示して押印させ、その場で二〇〇〇万円を交付させ、原告に対し、「昭和電工を買っておきますから、野村證券を信じて下さい。」と言って、原告宅を辞去した。
(三) 右のような経緯で、原告は、被告から、担当者の綱島の言われるままに平成元年四月一九日、昭和電工株式会社のワラント一〇〇ワラント(以下「本件ワラント」という。)を一九〇六万七五〇〇円で買い受けた(以下「本件取引」という。)。
3 その後、被告から原告に対し、取引明細書が届いたが、原告は何のことか分らず、綱島に問い合わせたところ、「野村證券が運用するので心配はいらない。」と言うので放置していたが、平成三年、取引明細書が被告から送付された際、原告は他の証券会社の社員にみせて説明を受けたところ、「これはワラントというもので権利の売買であり、通常の証券売買ではないから素人のやるものではない。」と言われた。驚いた原告は、綱島に強く抗議し、また被告の宇都宮支店長船山三千男とその善後策につき交渉を重ねたが結論が出なかった。
4 本件ワラントは、権利行使期間が経過し、現在その価値は全くなく、原告は、一九〇六万七五〇〇円の損害を被った。
5 以上のように、綱島は、新たな金融商品であるワラントの投資勧誘をするに当たっては、その内容、価格形成の仕組み、権利行使期間があること、右期間を経過するとワラントは無価値になること等ハイリスク・ハイリターンの商品であることを具体的に説明すべき義務があるにもかかわらず、これをしなかったものであるから、本件勧誘行為は違法なものである。
また、仮に、被告が主張するように綱島が電話で本件ワラントの買い付けを勧誘したとしても、そのハイリスク性の具体的内容や権利行使期間の経過により無価値になること等の具体的危険性を説明しておらず、本件勧誘行為は違法なものである。
6 よって、原告は、綱島の使用者である被告に対し、民法七一五条に基づき、本件ワラントの代金相当額である一九〇六万七五〇〇円の損害賠償金及び不法行為の後である平成四年四月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、原告と被告間で本件取引が行われたことは認め、その余は否認する。
3 同3の事実中、原告と被告の宇都宮支店長船山が交渉したことは認め、その余は不知。
4 同4の事実中、本件ワラントが現在無価値であることは認める。
5 同5、6は争う。
三 被告の主張
1 原告は、ガソリンスタンドを経営し、昭和六二年五月七日、被告と証券取引を開始し、同日付けで日本コロンビア転換社債一〇〇万円を買い付けたのを初めとして平成二年一月一九日の新日本製鉄株式会社の買い付けまで合計一九回にわたり転換社債、株式、投資信託、国債等の取引を行っており、また、被告以外にも昭和五五、六年ころから、共和証券と信用取引を行い、同六二年ころから、三洋証券とも取引を行い、証券取引には精通していた。更に、原告は、証券取引用の文字放送等の設備を備付け、株式情報を収集し、また、被告との間にファミコンを用いた証券取引用機器であるファミコン・トレードを設置して利用し、通常の投資家以上に情報収集に熱心であり、投資経験も豊富であった。
2(一) 被告の担当者綱島は、原告に対し、平成元年四月一八日午後六時過ぎころ、電話で昭和電工ワラントの買い付けを勧めたところ、原告から、その電話で昭和電工一〇〇ワラント(本件ワラント)を一九〇六万七五〇〇円で翌一九日付けで買い付ける旨の注文を受けた。
被告の担当者綱島は、原告に対し、本件ワラントの買い付けを勧めるに際し、ワラント証券は、新株を引き受ける権利のことで、株価が一割上がれば三割程上がり、一割下がれば三割程下がるというハイリスク・ハイリターンの商品であり、権利行使期間があり、本件ワラントはまだあと四年位の期間がある旨の説明をした。そして、原告は、ワラントのことは知っている旨述べ、本件ワラントの注文をしたものである。
(二) そして、翌一九日には、被告から原告に本件ワラントの買い付けについての計算書である売買報告書が郵送され、右報告書には買付銘柄、数量、単価、買付金額が記載されており、原告は本件取引の内容を確認している。
(三) 綱島は、四月二四日、本件取引の代金決済のため原告宅を訪問し、原告から二〇〇〇万円の交付を受け、その際、原告に対し、再度ワラントについて説明し、ワラント取引説明書を交付した。原告は、「私は貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」との記載のあるワラント取引確認書及び外国証券取引口座設定約諾書に各署名捺印をし、綱島に交付した。
(四)① 原告は、平成元年八月以降平成三年一二月四日まで、被告からの金銭及び証券残高についての問い合わせに対し、その内容に相違ない旨の回答書及び承認書を被告に差し入れ、本件取引に異存がない旨を承認している。
② 被告は、原告に対し、平成二年二月二八日以降平成四年二月二八日まで八回にわたり「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面を交付し、本件ワラントの時価評価をその都度知らせ、また右書面の裏面には「ワラント証券(新株引受権証券)取引についてのご案内」と題してワラントの内容及び取引に必要な事項が記載されており、これを受領している原告は、本件ワラント取引について十分に了知しているものである。
(五) 以上のように、本件ワラント取引が、原告主張のように、その内容を知らないままにされたものであれば、原告は、綱島あるいは被告に異議を述べ、抗議をする機会は十分にあったにもかかわらず、これをしていないことからみても、原告が本件ワラントについて何も知らないままに、綱島に勧められ買い付けたとする主張は事実に反するものである。
3 右のように、原告は、証券取引に精通し、ワラントの内容について十分に理解しており、また、綱島は、原告に対し、ワラントの内容等につき十分に説明しているのであり、本件取引は、原告の自己責任のもとにされたものであり、被告に責任はない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1の事実中、原告がガソリンスタンドを経営していること及び原告と被告との取引の時期、内容等は認め、その余は否認する。
原告は、本件ワラント取引当時六三才であり、ガソリンスタンドを経営していたが、娘夫婦に経営を任せ、隠居状態にあったものであり、また、証券取引について知識はなく、綱島に言われるままに証券取引をしていたに過ぎない。また、原告は被告から強く勧められるままにファミコン・トレードを設置したが、一度も使用することなく廃棄してしまった。
2 同2(一)の事実中、原告が本件ワラントを買い付けたことは認め、その余は否認する。
同2(三)の事実中、原告が綱島に二〇〇〇万円を交付したことは認め、その余は否認する。原告はワラント取引説明書の交付を受けていない。ワラント取引確認書、外国証券取引口座設定約諾書について、原告は何等の説明を受けておらず、署名、押印したかは不明である。
同2(四)①の事実は認める。原告は、綱島に指示されるとおり回答書、承認書に署名、捺印したものであり、ワラントとはどういうものか、平成三年にいたるまで全く知らなかったものである。
同2(四)②の事実中、被告主張の書面が交付されたことは認める。右書面の交付を受け、原告は、綱島に問い合わせをしたが、綱島の「心配はない、野村證券が五年間運用するから」と言う言葉を信用していた。
3 同3は争う。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(一)(二)の事実、原告と被告との証券取引は、昭和六二年五月七日、原告が日本コロンビア転換社債を一〇〇万円買付委託したことに始まり、本件取引を含めて合計一九回行われたこと及び原告と被告間で本件取引が行われたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 右争いのない各事実と甲第一、二号証、同第四号証、同第七号証、同第一一号証、同第一二号証、乙第二ないし一二号証、証人綱島和仁の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 原告は、平成元年ころ、妻トメ(昭和六三年六月九日に死亡)の生命保険金等で二〇〇〇万円程の余裕金ができたことから、被告の担当者の綱島に適当な投資先を相談したところ、綱島は、平成元年四月一八日の午後六時過ぎ、原告に電話で、昭和電工ワラントの買い付け方を勧め、ワラントは、株を買う権利が商品になっており、株価が一割上がると三割程上がり、株価が一割下がると三割程下がるという商品であり、権利行使期間は、昭和電工のワラントは発行後間もないものであり四年以上はかかる趣旨の説明をした。原告は、右電話で右ワラント(一〇〇ワラント)を翌四月一九日付けで買い付ける旨の注文をした。
2 そして、四月一九日ころ、被告は原告に対して、昭和電工ワラント一〇〇ワラント、買付金額一九〇六万七五〇〇円という内容の売買報告書を郵送した。綱島は、四月二四日に原告宅を訪問し、原告から二〇〇〇万円を受領し、その際、ワラントにつき前記と同程度の説明をし、ワラント取引説明書を交付した。原告は被告に対し、「私は貴社から受領したワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」という内容のワラント取引に関する確認書を差し入れた。なお、原告は、手が震え字を書くのが苦手であったため右確認書には、原告の長女である良子が原告に代わり署名した。
綱島は、右説明書を原告方に持参したのが初めてであり、本件取引以前には、ワラントに関するパンフレット等は原告に交付していない。
3 その後、原告は、被告からの本件ワラントに関する記載のある取引残高の照会に対し、その内容に相違のない旨の回答書等を送付している。また、被告は原告に対し、平成二年二月二八日以降同四年二月二八日まで八回にわたり、「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面で、本件ワラントの時価を報告し、またその裏面にはワラントの内容、権利行使期間内に行使をしないとワラントの価値が無くなることが記載されている。
4 平成三年四月ころ、原告は、そのころ取引をしていた共和証券の担当者広瀬隆に被告から送付された取引明細書をみせたところ、広瀬からワラントの内容、ハイリスク・ハイリターンの商品であること等の具体的な説明を受けた。右説明を受けた後、原告は被告に異議を唱え、平成三年八月五日及び数回にわたり被告宇都宮支店長船山とその善後策につき協議をしたが、被告側では本件取引の際、綱島がワラントにつき十分に説明したと主張し、結論が出なかった。以上の事実が認定できる。
原告は、綱島から本件ワラントの買い付けを勧誘された際、ワラントという名称を聞いていない趣旨の供述をするが、綱島がワラントという名を秘して買い付けを勧誘すること、また、原告がどんな名称の商品であるか全く分からずに買い付けをすることは考え難く、この点についての原告の供述は採用しない(もっとも、ワラントにつきどの程度理解していたかどうかは後記認定のとおりである。)。
また、証人綱島和仁は、平成元年四月二四日原告に対し、ワラント取引説明書に基づき説明し電話で注文を受けたときより詳細に説明した旨の証言をするが、右証言によるも、本件取引成立後にワラントの危険性についてどの程度説明したか必ずしも明らかでなく、また、ワラントの内容、危険性についての説明は、当該ワラント取引をするかどうかの判断を提供することに意味があるのであるから、本件取引以前にすることに意味があるばかりでなく、本件取引後に綱島が本件取引時よりも詳細に説明をしたとは考え難く、右証言は採用しない。
三1 一般に、証券取引は、本来リスクを伴うものであり、投資者自身において、証券会社からあるいはその他の情報等を参考にして、自らの責任で当該取引の危険性の有無、程度を判断して行うべきものである(自己責任の原則)が、証券会社と一般の投資者との間では、証券取引についての知識、情報等につき質的な差があり、証券会社は、一般投資者に対し、投資商品を提供することにより利益を得る立場にあるのであるから、証券会社が投資者に投資商品を勧誘する場合には、投資者が当該取引に伴う危険性につき的確な判断を妨げるような虚偽の情報又は断定的な判断を提供してはならないことは勿論のこと、当該投資者の投資経験、財産状態に照らして、明らかに過大で危険を伴う取引を積極的に勧誘することを回避すべき義務を負うものである。また、一般投資者に内容が複雑で危険性の高い投資商品を勧誘する場合には、当該投資者が、その商品の取引に精通している場合を除き、信義則上、投資者の意思決定に当たって必要な当該商品の内容、当該取引に伴う危険につき説明する義務を負うこともあるというべきである。
2 乙第二号証、弁論の全趣旨によれば、ワラントには、新株引受権と社債とが結合した「非分離型」と両者が分離し新株引受権の部分のみが証券化されている「分離型」があり、現在は「分離型」が一般であり、本件ワラントも分離型であること、ワラント(分離型)は、一定の期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定数の新株を引き受ける権利を表象した証券であり、新株引受権を行使できる期間(権利行使期間)が予め定められており、その期間が過ぎると、引受権は消滅し、ワラントは無価値になること、ワラントの価格は、理論的には、当該ワラント債発行会社の当該株価から権利行使価格を控除した額(ワラント証券の理論的価格でパリティーという。)によるが、現実の市場では、将来における株価の上昇を期待して、右の価格にプレミアム(将来の株価上昇の期待値)が付加された価格で取引されること、その価格は、原則的には、発行会社の株価の変動に連動し上下するが、その変動率は株式に比べて大きく、ワラントの売買は、株式の売買と比較して、高い投資効率を上げ、利益を上げることが可能であるが、その反面、投資金全額を失う危険性(しかし、投資者の損失は投資額に限定され、株式の信用取引や商品先物取引のように投資額以上の損失を被ることはない。)があること、また、ワラントは、国内取引所上場の有価証券とは異なり、店頭における相対取引であるため、価格は「売り」と「買い」で異なることが各認められる。
以上のように、ワラントは、同額の資金で株式の現物取引を行う場合に比し、より多額の利益が得られることもあるが、投資資金全額を失うこともある、いわゆる、ハイリスク・ハイリターンの特質を有する商品である。
四 以上を前提に本件取引の勧誘行為につき、違法な点があったか否かにつき検討する。
前記説示の証券業者の社会的立場及び原告はワラントの取引は初めてであり、その後もワラント取引を行っていないこと、原告が本件取引以前からワラントにつき関心をもち、ワラントについて特に知識を有していた事実は認められないこと、ワラントは、ハイリスク・ハイリターンの商品であり、一般には馴染みの薄い商品であること等を勘案すると、被告は、原告にワラントの買い付けを勧誘する場合には、その内容、特に価格は当該株価に連動し、株価の値段の数倍の値動きをする商品であること、権利行使期間の存在及び右期間を経過するとワラントは無価値になること等ハイリスク・ハイリターンの商品であることの説明を、相手が十分に理解しているかどうかを考慮しながら具体的にする義務があると言うべきである。
そして、前記認定事実によれば、綱島は、原告に対し、本件取引にあたり、本件昭和電工のワラントのみの銘柄を勧め、株価が一割上がると三割程上がり、一割下がると三割程下がるという商品であること、権利行使期間があることを一回の電話で抽象的に説明したに過ぎず、本件取引を勧誘をするに際し、ワラント取引説明書等を交付することなく、従って、右説明書に基づきワラントの内容、価格形成の仕組み、権利行使期間の存在及び右期間を経過するとワラントが無価値になること等ワラント取引の危険性について十分な説明をせずに、また、原告が十分にワラントについて十分に理解しているかどうか確認しないままに、本件取引を成立させたものであることが認められ、他方、原告は、前記のとおり綱島から一応ワラントについての説明を受けたが、一回の電話での説明で本件ワラントの買い付けを注文したこと(原告がワラントについて事前に十分な知識を有していたと認めるに足る的確な証拠のない本件においては、原告が綱島の勧める本件ワラントを即時に買い付けたことからみて、前記認定の綱島の説明は、本件ワラントが有利であることを重点においたものであると推認することができる。)及び前記認定二4の事実からみると、ワラントについて権利行使期間がありその期間を経過すると無価値になること等ワラントのリスクについて十分な知識はなく、漠然とワラントは普通の株等の取引よりも有利であると考え本件取引に応じたことが窺える。
なお、前記認定のように、原告は本件取引をしていることは間違いない旨の回答書等を送付し、また、本件ワラントの時価についての書面の交付を受けているにもかかわらず、平成三年八月ころになって、初めて本件取引に異議を唱えたものであるが、右は、原告は、綱島、被告を信用し、本件取引後に送られてくる前記書面に十分に目を通さなかったとも考えられるところであり、右事実から、原告がワラントの内容、危険性を理解していたと推認することは、相当ではない。
以上によれば、被告の担当者綱島の本件勧誘行為は、説明義務を尽くしていない違法なものというべきである。
五 次に損害額につき検討する。
1 本件ワラントは、権利行使期間を経過し現在無価値であることは、当事者間に争いがない。
2 ところで、原告は、綱島から不十分ではあるが、ワラントは、通常の株式より値動きの大きい商品であること、権利行使期間があることを告げられていたのであるから、本件取引をするにあたり、原告において更に綱島に質問等するなりして、僅かな努力、注意を払えば、ワラントの特質と危険性をより具体的に理解できたものであること、本件取引後ではあるが、ワラント取引説明書、その後交付された書面には、ワラントのリスク、権利行使期間を経過するとワラント自体無価値になるとの記載があること、原告は、本件取引当時、ガソリンスタンドの経営をしており、また、証券取引の経験もあり、株取引等につき相応の経験、知識を有していたこと及び前記認定の本件勧誘行為の違法性の程度その他前記認定した諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、本件取引により原告の被った損害額の六割を減ずるのが相当である。
六 綱島が被告の従業員であることは争いがなく、前記認定事実によれば、本件は綱島が被告の事業の執行として行ったものであることは明らかである。
七 以上の事実によれば、原告の本件請求中、七六二万七〇〇〇円及び本件不法行為の後である平成四年四月一八日から支払い済みまで民法所定年五分の割合による金員を支払う限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官滿田忠彦)